キリムとはトルコ遊牧民の伝統的な織物。カーペットになり、タペストリーになり、カバーになる。昔の女性は嫁入り道具としてキリムを織り、嫁ぎ先へ持って行った。
模様にはそれぞれ意味があり、字を知らない女性たちにとってそれは手紙でもあった。嫁ぐまでの日々、1年も2年もかけて織り上げるラブレター。愛を込めて、幸せを願って。
キリムの特徴は薄くて畳めるということ。そして軽い。遊牧民である彼らは移動の際に都合の良い平織物を選んだ。ペルシャ絨毯のような厚くて重い巻物は適さなかったのだ。
キリムはウールでありながら麻のようなシャリ感があり、折り皺がつかない。更に、しっかりと織り込まれた織り地には埃や虫が入り込まない。まさに遊牧民のための織物。
キリムが縁で1人のトルコ人男性と知り合った。遊牧民の家の出身である彼は、母親の手織り技術によって育てられた。2人の姉も織り子である。妹は現代っ子。手間暇かけて金にならないことはしない。
iphoneを使いこなし、財を操るビジネスマンの彼は言う。「メールは簡単です。いくつもいくつも送れます。けれど、ひとつも残らない」
そう。iphoneが壊れれば。送電が止まり、世界から電気が無くなったら。データは本当は盤石では無い。
「けれど、キリムは残ります。何年も掛けて織り上げた手紙は200年も250年も残り続けます」
それさえも、時を得て劣化し、いずれ朽ちるのだろうけど、けれど、その1枚の布が持ち主の人生をどれほど彩ることか。
キリムのような言葉を織り上げたい。それがどのような媒体を通して届けられようとも、手触りを感じられるような。
いつまでも、そのひとを暖かく包み、受け入れ、勇気付けるような。
いつも傍にある安らぎと誇りが、明日もそこにあるのだと安心してぐっすり眠れるような。